太さが異なる角柱10本の「茶色の階段」という教具。
見るからに地味な教具で、子供は興味を持って遊ぶのだろうか、と疑問に思ってしまうほど。
ところが、使い方が分かると、子供は楽しそうに思い描いた形を創っていきます。
角柱のどこが、子供の創造力をくすぐるのでしょうか?
今回は、モンテッソーリ教具「茶色の階段」に隠された魅力や効果、使い方について紹介させていただきます。
もし、お子さんがモンテッソーリ園などで教具に出会う機会があるのでしたら、ご家庭に教具を用意しないことをおすすめします。
モンテッソーリ教育では、教具の第一印象を大切にしており、逆効果になる場合があるからです。
僕のように、定員オーバーなどで「モンテッソーリ園に入れなかったけれど、それでもモンテッソーリ教育を通じて、子供の自立心を育ててあげたい!」と思われている方の参考になれば幸いです。
<もくじ>
モンテッソーリ教具の『茶色の階段』とは
モンテッソーリ教具の「茶色の階段(broad stair)」は、太さの異なる茶色の木製角柱10本からなる教具です。その名の通り、太い順に並べると階段ができあがります。
この教具は、感覚教育の中で「視覚」を育てる教具に位置づけられおり、サイズの異なる角柱を並べながら、太さを見分ける力を鍛えます。
対象年齢は2歳半からが目安とされていますが、太さのみが異なる教具「円柱さしB」や大きさの概念を知る教具「ピンクタワー」に馴染んだ後がよいと言われています。
「円柱さしB」と「ピンクタワー」については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
角柱が導く「正方形と数の関係」
角柱10本のサイズは、長さが20cmとすべて同じで、断面の正方形の大きさだけが変化します。
正方形の1辺は10cm、9cm、・・・、2cm、1cmと1cm刻みで細くなり、縦・横の2方向の変化から「太さ・面積・量の変化」を見て感じることができます。
色においても、子供が太さだけに集中できるように、茶色1色に統一されています。
さらには、角柱の本数や各辺の長さ、太さの変化にも1つ1つ意味があり、算数的な感覚までも養ってくれます。
例えば、角柱の本数から「十進法の感覚」を、各辺の長さから「メートル法の感覚」を、太さの違いから「2乗比の関係」や「正方形と数の関係」を体感できるようになっています。
「2乗比の関係」というのは、正方形の面積の「102:92:・・・:22:12の2乗の比の関係」のことで、子供が小学校で面積を学んだ時に、「角柱で得た太さの感覚」と「面積の法則」が結びつくようにできています。
もう1つの「正方形と数の関係」は、正方形1辺の長さ10cmの最も太い角柱1本と、1辺1cmの最も細い角柱100本分が同じ大きさになることを暗示しており、子供が「100」という数に出会った時に「正方形」を連想させる役割も担っているのです。
僕には「100=正方形」という感覚がなかったので、幼少期に知っていたら、算数をもっと好きになっていたかもしれません。
遊びの世界が広がる6つの基本操作
茶色の階段の使い方は、階段状に並べるだけではありません!
角柱の置き方を変えたり、積んだりして、子供は遊びを発展させていきます。その基本となる6つの使い方をご紹介します。
- 水平に並べて階段をつくる
- 並べ方を変える(規則的・不規則的)
- 垂直に積み上げる(角寄せ・交互・らせん状など)
- 「取ってくる場所」と「並べる/積む場所」の距離をとる
- 並べた/積み上げた状態から1つ角柱を抜き取り、その場所を当ててもらう
- 茶色の階段・ピンクタワーの2つの教具を使い、①~⑤を行う
特に「ピンクタワー」を併用する使い方⑥では、教具1つの時とは比にならないほど、遊びの世界が広がります。
「茶色の階段」の類似品に注意
茶色の階段の販売サイトを見ると、太さ・本数が異なる類似品を見かけます。
先ほど紹介したように、角柱の太さや本数には、それぞれ意味がありますので、類似品では本来得られるはずの効果が失われてしまいます。
それだけでなく、茶色の階段の遊び方を飛躍的に増やしてくれる「ピンクタワー」との関係性までも損ないかねません。
ですので、茶色の階段をご購入される場合は「正方形1辺の長さが1cm~10cmの角柱10本のセット」にすることをおすすめします。
ピンクタワーのサイズ次第では類似品の購入も有効
茶色の階段もピンクタワーも、正規品を利用することで最大の効果を得られますが、知らないうちに「大きさの異なる類似品」を購入してしまった、なんて場合も珍しくありません。
もしも、すでに大きさ1cm~10cm以外のピンクタワーをお持ちの場合は、ピンクタワーと同サイズの茶色の階段を選ぶのが良いでしょう。これにより、ピンクタワーと組み合わせて使えるようになります。
参考までに、こちらは正方形1辺の長さが0.7cm~7cmの茶色の階段です。
角柱がもたらす2つの効果
それでは、茶色の階段を使って遊ぶことで、子供のどんな能力が育ち、そしてどんな変化があるのか、茶色の階段だけが持つ2つの効果を紹介します。
「太さの違い」がココにもあった!
子供にとって「太い・細い」という言葉は、「大きい・小さい」よりも抽象的で、区別することが難しいようです。
というのも、「太さ」の変化は縦・横の2方向のみで、縦・横・長さの3方向が変化する「大きさ」より、変わる所が1方向少ないためです。
子供が「太さ」を識別できるように、太さの違う角柱を比べながら、次のように言葉を紹介すると効果的です。
- これは、太い/細い
- これはこちらより、太い/細い
- これは最も、太い/細い
これにより、角柱と言葉の共通点を見つけ、子供は大きさと太さの違いや太さの概念を正しく把握することができます。
太さの概念を知った娘は、太さが違う2つの物を比べては喜んでいました。
そして驚いたことに、サツマイモを見ながら「ここ細い?ここ太い?ここ細い!!」と、1つの物の中にある太さの違いを見つけ出したのです。
ひっそりと育まれる子供の観察力を見ることができ、子供の健やかな成長に感動した瞬間でした。
握って育む「太さ感覚」
角柱を運んでいると「太さ感覚」が養われます。
いつも同じ「握る」持ち方をすることで、手の広さや力加減の変化を感じることができるためです。
子供は一気に何本も運びたい時期ですので、最初に親がやって見せるとよいでしょう。親の真似をして角柱を握ってくれる可能性がグッと高まります。
この「握る」動作を、何度も繰り返すことで「手の開き具合」と「見た目の太さ」が一致し、太さ感覚を身につけていくのです。
幼稚園でサツマイモ掘り体験があった日、娘は両手に収まらない極太のサツマイモに出会ったことを、教えてくれました。
その太さを表現しようと、両手で丸の形を作ってくれたのですが、なんと両手の間には隙間が空いていたのです。
おそらく娘の目には、両手の中に鮮明に再現されたサツマイモの太さが見えていたのでしょう。
この「太さ感覚」が数の世界への道標となってくれることを楽しみに、子供の今後を見守りたいと思います。
子供にうれしい3つの要素
見るからに味気ない茶色の階段。いったい、子供はどこに惹かれるのでしょうか。
この謎を解くヒントを、真剣な眼差しで遊んだ後に目を輝かせながら話す娘の様子が教えてくれました。
その中でも特徴的だった3つの出来事を紹介します。
ズッシリ感がたまらないの!
僕が初めて茶色の階段を使った時の印象は、「重たっ!」でした。
自分の体を思い通りに動かせるようになりたい子供にとって、このズッシリ感は持ち運ばずにいられないようです。
特に最も太い角柱の重さは約1kgもあり、体重12kgの娘にとっては、体重60kgの大人で言う5kgに相当します。
その重たい角柱を両手で持ち、鼻息を荒げながら努力して運ぶ娘の姿は、僕も何か頑張ろうかなという気持ちにしてくれます。
大発見!規則性を見つけちゃった
階段状に角柱を並べた後、娘が最も細い角柱を持って、なにやら不思議そうな顔で、他の角柱の上に置いていました。
しばらく様子を見ていると「これを乗せると、同じになるよ!」と、興奮した面持ちで教えてくれました。
なんと角柱の変化の規則性に自分で気づいたのです。
未知のことを発見する喜びは、大人も子供も同じなんですね。
ピンクタワーとのコラボが楽しい!
関連教具「ピンクタワー」の登場で、茶色の階段の遊び方が格段に広がります。
まったく同じ形がない角柱と立方体ですが、この2つを一緒に使うことで、同じ面・同じ太さを合わせられるようになるためです。
角柱と立方体を太い順に積み上げた娘が「魚の骨のできあがり!」と言いながら、イメージ通りの形ができて満足する娘の顔は印象的でした。
自分の想像した物が目の前で出来上がる光景は、どうしてこんなに胸が膨らむのでしょう。
ピンクタワーと一緒に使うことで、次々と新しい置き方が思いつき、試してみたくなるのですね。
最後に
シンプルかつ巧妙に創られたモンテッソーリ教具「茶色の階段」はいかがでしたでしょうか。
見た目は素朴でも、子供にとっては頑張れば運べる重さや規則性の気づきやすさなど、自分の力でできた時の満足感がたまらないのでしょう。
親としても、他の教具「ピンクタワー」と一緒に使うことで遊びの幅が広がることは嬉しいですね。
「茶色の階段」に興味を持った方はもちろん、すでに「ピンクタワー」をお持ちの方には、文句なしにおすすめです。
ぜひ、子供と一緒にオリジナル作品を生みだすワクワク感を体験してみてください。
この記事との出会いが、あなたと子供の素敵な未来に結びつくことを願っております。ありがとうございました。